supported by

SV.LEAGUE JOURNAL

「あと1点を取るための“最後の砦”に」岡山に根差し、地域と共に戦い抜く。小松原凛香が示す新時代の決意
「あと1点を取るための“最後の砦”に」岡山に根差し、地域と共に戦い抜く。小松原凛香が示す新時代の決意
インタビュー

「あと1点を取るための“最後の砦”に」岡山に根差し、地域と共に戦い抜く。小松原凛香が示す新時代の決意

2026.02.27
seagulls

島根の地で着実に力を蓄え、今や岡山シーガルズの攻撃を牽引する存在となった小松原凛香。宮部愛芽世や髙橋藍といった華やかな同期たちと同じ舞台に立ち、自らの手で「最強世代の一員」としての道を切り拓いてきた。一度は決まったIT企業の内定を辞退し、退路を断って挑んだトップリーグでの日々。偉大な先輩たちの想いを継承し、岡山に勝利を届けるために戦う彼女の、凛とした覚悟と等身大の想いにスポットを当てる。

「私も同期なんよ」最強世代への憧れが、戦う誇りに変わるまで

 2001年生まれ、同期は男女共に華やかな顔ぶれが揃う。 岡山シーガルズのオポジットとして攻撃の柱となる小松原凛香もその1人。1月31日に開催されたオールスターゲームにも出場を果たした、“岡山シーガルズの顔”とも言うべき存在なのだが、首を横に何度も振りながら、笑顔で「いやいやいや」と否定する。
「私は全然無名の選手だったし、同世代とは言っても高校時代に対戦したこともない選手ばかり。むしろ『すごいなぁ』と憧れる側でした」
 宮部愛芽世、佐藤淑乃、髙橋藍。高校卒業直後や大学時代から日本代表に選出される選手も多く、まさに華々しい同期たちであることは確かで「憧れていた」という言葉決して謙遜ではないが、着々と出場機会を増やすSVリーグの対戦を通して、少しずつ、意識も変わってきた。
「すごい世代だなっていつも思いますけど、でもどこかで『私も同期なんよ』って。誇り、じゃないですけど、そういう世代の1人なんだ、という気持ちも持てるようになりました」

地元を愛し、一歩ずつ。島根で蓄えた純粋な情熱が、次なるステージを切り拓く

 小松原は「SVリーグでは珍しいかもしれない」という島根出身、島根育ちの選手だ。
 出身が島根である選手は他にいても、高校や早ければ中学から他県に渡る選手も少なくない。そんな中、小学3年時に母の影響でバレーボールを始めた小松原は「地元から出ることなど考えもしなかった」と笑いながら回顧する。
「強いチームではなかったので、結構早い段階から試合に出してもらっていたんです。でも市の大会は勝てても、県大会に出るのがやっと、というレベルだったので、春高は目指すものじゃなく見るもの。負けると悔しいし、もっとうまくなりたいと思いはするけど、じゃあ自分も強いところでやりたいかと言われたらバレーだけになるのも嫌だったし、何より強豪校へ行く度胸もなかった。中学から高校も普通に地元の(松江北)高校に進んで、卒業したら地元の島根大を目指そうと思っていました」
 大きな夢を抱くわけではなかった現実主義者の少女にとって、最初の転機は高校3年生の時だった。インターハイ予選を終え、秋の国体に向け島根県選抜の1人として関西での合宿に参加した。その時に関西一部リーグの京都橘大を率いる藤田幸光監督の目に留まり、入学を進められたが最初は考えもしなかった。心が揺らいだのは、実にシンプルかつ高校生らしい理由だ。
「受験勉強が嫌になって(笑)。話を聞くだけ聞いてみようかな、と思って、いろいろ聞いているうちに(京都橘大へ)行くのもいいな、と思うようになったんです」
 高校時代は部員の数も少なく、「ボールがつながれば自分が打つ役割だった」というように、攻撃の大半は担ってきたが、関西一部リーグの大学へ入れば当然周囲のレベルも上がる。基本技術や先輩後輩の上下関係。高校とは全く違う環境だったが、新たな刺激が加わる日々は小松原にとっては新鮮で「厳しいからこそ感じられる楽しさがたくさんあった」と目を輝かせる。
 関西では勝つことができても全国の壁は厚く、全日本インカレで勝ち上がることはなかなかできずにいたが、レベルが高い場所でバレーをする日々は存分に味わった。大学3年生の頃から就職活動を始め、持ち前のコミュニケーション能力を武器にIT系企業から内定も得た。バレーボールには区切りをつけて新たな生活が始まる、と胸を躍らせていた大学4年生の夏、さらに大きな転機が訪れた。

「バレーを続けられる幸せ」を胸に。憧れの存在との出会いが呼び覚ました、新たな情熱

「凛香、実家に帰る時、岡山通るよね?」
 夏休み中の帰省初日、藤田監督から電話がかかってきた。わけもわからぬまま「通ります」と答えると、続けざまに藤田監督が言った。
「じゃあ(岡山)シーガルズの練習に行ってみる?」
 頭の中では大きなクエスチョンマークが浮かぶ。え? 岡山シーガルズ? あのVリーグ(現:SVリーグ)の?
 整理できたわけではなかったが、通り道であることに変わりはない。何より、たとえ練習参加とはいえ、トップリーグのクラブに加わるなどめったにできる経験ではない。幼い頃から日本代表で活躍する山口舞さんや宮下遥さんの存在もよく知っていたし、守備力に定評のあるチームであることも理解していた。もともと自分は攻撃型の選手ではあったが、軽い気持ちで「行ってみよう」と向かった体育館で、いきなり、憧れのスターに遭遇した。
「たまたま遥さんがいたんです。その時はリアルに『うわ、宮下だ』って思いました(笑)。私にとって遥さんはテレビを通してみる人だったから、母にも『宮下ほんまにおった』って、呼び捨てで(笑)。まさか自分がチームメイトになるなんて、考えもしていませんでした」
 練習に参加するとすぐに、岡山シーガルズからは「クラブに来ないか」と誘いを受けた。とはいえ就職先はすでに決まっている。バレーボール選手になれるのは光栄なことではあるけれど、将来を考えたら安定した生活も捨てきれない。迷う小松原を動かしたのは、藤田監督の言葉だった。
「『バレーは続けたくても続けられない人がいるのに、続けられる人が続けないのはもったいない』と何度も言われて、本当にその通りだな、って。続けることができるなら、たとえうまくいかなかったとしてもやってみよう、やってみたいなと思ったので、内定をいただいた企業に謝罪の電話をして、岡山シーガルズで頑張ろう、と決めました」

伝統の守備を「得点」に変える左腕。一点を掴み取る“最後の砦”

 企業を母体とするクラブとは異なり、1999年のクラブ創立以後、岡山シーガルズは岡山県岡山市を本拠地として活動するクラブチーム。所属する選手たちは、バレーボールで好成績を収めるための練習に明け暮れるだけでなく、地域密着を掲げたさまざまな活動にも参加する。岡山県内の小学校や幼稚園でのバレーボール教室も定期的に行われているため、子どもたちが「岡山シーガルズが来てくれるのがずっと楽しみだった」と嬉しそうに参加する姿を見て、「むしろ自分たちが元気をもらう」と嬉しそうに笑う。
「もともと私は子どもの頃からおしゃべりが好きだったので、いろいろな人たちと触れ合うこと自体が好きだし自分にも合っている。バレー教室に参加してくれた子どもたちがホームゲームに来て下さることも多いし、すぐに反応を得られるのは選手にとってすごく幸せなことですよね。これからはもっと、バレーボールだけじゃなく岡山のプロスポーツ全体でこうした活動を広げていきたいな、って参加するたびに感じるし、たくさんの力をもらっています」
 もらったパワーはコートで力に変えるのみ。小松原も「守備力が強いチーム、という印象が強い」と言うように、岡山シーガルズの武器はレシーブ力をベースとした粘りのバレー。加入以来2シーズンが過ぎ、日々の練習を重ねる中で小松原も「今まで以上に守備範囲も広がったし、ディフェンスに対する苦手意識が消えた」と声を弾ませるが、守備力に加え、やはりオポジットとして最大の見せ場で武器は攻撃力。左腕から放つバックアタックは得意とするプレーでもあり、決まれば会場が沸く。河本昭義監督からも「積極的に打ってほしい」と言われている豪快なスパイクは、チームにとっても攻撃の幅を広げるアクセントであるのは間違いない。
「岡山シーガルズでは今までバックアタックを打つ選手があまりいなかったので、その強みを加えられるのはすごく嬉しいし、やりがいもある。『どんどん積極的に』と言われているし、決まれば自分も気持ちが上がるし、単純なので、よっしゃもっともっと打とう、と思うんです(笑)。攻撃面でけん引する存在でありたいし、チームの流れを切らないように。あと1点を取るための“最後の砦”、そういう存在になりたいです」

想いを繋ぎ、新時代へ。誰もが認める「岡山の象徴」を目指して

 SVリーグになり、各クラブの外国籍選手も増える中、勝利をつかみ取るのは簡単なことではない。24年には宮下や川島亜依美、昨年のシーズン終了後には金田修佳や宇賀神みずきといった長年岡山シーガルズの顔としてクラブをけん引した選手たちも現役を退き、「長年応援して下さっているファンの方々は寂しさを感じているかもしれない」と小松原は言う。
 だが、クラブにとってもリーグ全体としても変革期である今は、新たな歴史を築くための挑戦の時でもある。
「今いる選手たちが、それぞれのポジションで岡山シーガルズらしさを継承して、引っ張っていけるタイミングでもあると思うし、そのためにもそれぞれがいいところを出していかないといけない。ホームゲームで勝った時に、ファンの方々が本当に喜んでくれている姿を見てすごく嬉しかったし、苦しいシーズンでも変わらずにずっと応援して下さっているファンの方々のためにもしっかり勝ちたい。岡山のファンの方々は温かい人たちばかりだからこそ、勝たないといかん、って心から思っています」
 サッカーやバスケットボール、プロチームの数も増えたスポーツ王国、岡山。だからこそ、抱く夢もある。
「いろんな競技、クラブがあるけれど、やっぱり岡山といえばシーガルズ、と言ってもらえるように。勝利を求めながら岡山という地域に根差して、一緒に戦っていきたいです」
 左腕でもぎ取る1点で、この地を盛り上げていく。夢は大きく、膨らむばかりだ。


Text by Yuko Tanaka
Photograph by Kohei Komatsu

試合情報はこちらをチェック!

他の記事を読む

記事を探す